やせっぽちソプラノのキッチン

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映画ジュリー&ジュリアに寄せて   8・20・2009

 8月7日公開になった映画、ジュリーとジュリア(Julie &Julia)を先週末見に行きました。この映画はアメリカ人向けに始めて本格的なフランス料理の本を書いた料理家、ジュリア・チャイルドとニューヨークに住む若い働く人妻、ジュリーがある日思い立ってジュリア・チャイルドの524のレシピを全部1年以内に作ってそれをブログに書くという、過去と現在、ジュリアとジュリーが織り成す実話を元にした物語です。

 この映画の根幹であるジュリア・チャイルドの料理本「Mastering The Art Of French Cooking」のペーパーバックス版、全二巻を私も持っています。

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 1979年、私たちは結婚後一年で夫の仕事のためイギリスに滞在することになりました。イギリスに行って間もなくの頃、本屋さんで見つけたこの本を夫が私に勧めたのです。夫は今ではなぜこの本を勧めたのか覚えていないそうです。料理本など今まで買った事もない夫がなぜ,この本を知っていたのか本人が覚えていないのですから、私に分かりようもありません。一枚の写真もなく、黒白のイラストしかないおよそ愛嬌のない本でしたので、私は躊躇しました。料理本にはカラフルな写真がある方がイメージがわきやすいものです。夫が勧めるのでしぶしぶ買った本でしたが、それが私のお料理への興味を引き出した大切で貴重な本となったのでした。この本は私に料理のおもしろさ、奥深さを教えてくれました。書き方がとても親切なので、この通り料理すれば、どんなに複雑に見える料理でも、ちゃんとおいしく出来ました。

 イギリスの冬は長く陰鬱です。午後3時過ぎには暗くなり始め、朝の出勤時間の8時になってもまだ暗いのです。それまで外国に住んだことのなかった私は、英語は分からない、友達はいない、今のようにインターネットもない時代、電話代も高く日本へもおいそれとかけることが出来ず、気の滅入る日を送っていました。おまけに、天気まで毎日どんよりとしていて、めったに太陽が顔を出しません。

 それに、最初の六ヶ月は運転免許も持っていませんでしたし、1時間に一本のバスだけが街へ行く足でしたから、あまり一人であちこち行くこともままなりませんでした。そんな訳で、この料理本を昼間に読みながら献立を考え、週末にはそれに従って一週間分の食糧を買い込み、夕方3時を過ぎるとこの本を見ながら夕食を作ることが日課のようになりました。その頃は英語を読むのもご飯を作るのも時間がかかったものです。

 524のレシピ全部を作ったジュリーには遠く及びませんが、私もこの本に従って、色々な料理に挑戦しました。特にクリスマスやお正月はローストチキンやロブスターのテルミドールのような超難関なものもトライしました。映画に出て来たビーフ・ブルギニョンも何度か作りました。ジュリーがやっていたように、お肉の水分をペーパータオルでしっかりとってからソテーすることはこの本から学びました。

映画の中でジュリーが作ったビーフ・ブルギニョンのページ
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 私たちが住んでいたレディング(Reading)に当時は日本食料品もありませんでしたから、手に入るお米は外米しかありません。普段はイタリア産の短米をお鍋で炊いていましたが、このいわゆる外米もこの本のとおりに作れば素晴らしいお米の一品が出来ました。

 ラズベリーやオレンジを使って素晴らしくおいしいババリアン・クリームを作ることが出来たのもこの本のおかげです。それにイギリスの乳製品はとてもおいしいのです。クリームはダブル・クリームと言うのがあり、それは箱から注ぐ時にすでにトロっとしていました。角砂糖でオレンジの皮をこすり、オレンジの香とエキスを角砂糖にしみこませる方法は今まで聞いたこともなく、そうやって作ったデザートはオレンジの香が高く、高級レストランで戴くような味に仕上がりました

 どんな難しいものでもこのレシピの通り料理して、今まで失敗したことがありません。これはすごいことです。ジュリア・チャイルドはこの本を完成するに当たって、全部自分たちで作ってみたといいます。
こんな風にして、私たちは暗く憂鬱なイギリスの冬をおいしいお料理を作って食べることで乗り切ったのでした。

 実はこの写真の本は二代目です。一代目はあまりにぼろぼろになったので、お払い箱にして、1984年、2度目にイギリスに滞在したときに新たに買ったのですが、それでもこんなになってしまいました。この本には色々な思い出が一杯詰まっています。ですから、この本を手に取ると、イギリスでのあんなこと、こんなことが走馬灯のように駆け巡ります。

 最近はこの本を見ることはめったに無くなりました。というのも、年と時代のせいでしょうか、正統派のフランス料理のバターやクリームをたっぷり使ったものよりは、さっぱりとした味を好むようになったからです。

 それでもこの本は私にとってフランス料理のバイブルとも言える大事な本です。
映画の中でジュリアの夫が「君の本が世界を変えるんだよ。」と言うシーンがあります。確かに、世界中で一体どれだけの人がジュリア・チャイルドのこの本の恩恵を蒙ったことでしょう。テレビでのジュリア・チャイルドの番組も彼女の気取らない人柄がにじみ出た人気番組でした。お鍋からお皿に移すときに失敗して崩してしまったり、それでもちっとも慌てないで、「皆さんだったらもっと上手に出来るでしょう。」と言ったりする庶民性が、皆に愛されていたのだと思います。
 
 私にとってこの本と出合ったことは幸福でした。そして、多分夫も。ジュリー&ジュリアの映画は時にジュリーが昔の自分と重なり、料理だけでなくそれにまつわる様々な昔のことを思い出させてくれました。

 そこで久しぶりにこの本から、牛肉とたまねぎのビール煮を作りました。

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 10年くらい前まではよく作った料理です。ベルギー風のフランス料理なのに、何かまるでおふくろの味のような、昔の自分に出会ったようなとても懐かしい味がしました。

レシピ
牛肉とたまねぎのビール煮
 (なるたけ本文に忠実に訳したつもりです。)
(Carbonnades à la Flamande; Beef and Onions Braised in Beer)

 ビールはベルギーの煮込み料理に使う典型的なもので、赤ワインを使ったビーフブルギニョンとはずい分違ったものになります。ほんの少しブラウンシュガーを入れることによってビールの苦さが緩和されます。そして最後に入れる少量のヴィネガーが独特な味をかもし出します。バターでソテーしてパセリとあえたじゃがいもか、バターでソテーしたヌードルを添えてグリーンサラダとビールでお召し上がり下さい。

-6人分-
脂身の少ない牛肉の塊(チャック、又はランプの部分) 1.5キロ弱
新鮮な豚の脂又はよいサラダオイル  大匙2-3
しっかりしたフライパン


オーブンを160度C(325度F)に温めておく。牛肉を厚さ1センチ、5x10センチの大きさにスライスする。牛肉を一枚ずつペーパータオルなどで水分をふき取る。フライパンに脂かサラダオイルを2-3ミリの深さににいれて煙が立つくらいまで熱する。すばやく牛肉のスライスを2-3枚ずつ入れて両面が茶色になるまで焼き、皿に取り出す。

たまねぎのスライス   約700g
つぶしたにんにく    4かけ
塩・胡椒


中火にし、足りなかったらオイルを足し、上記のフライパンにたまねぎを入れ、茶色になるまで炒める。火からおろし、塩胡椒し、にんにくを入れて混ぜる。

半径20-22センチ、8センチ深さの直火、オーブンに入れられるキャセロール鍋
塩・胡椒


キャセロールの中に牛肉半分をいれ軽く塩胡椒する。その上にたまねぎ半量を敷き詰める。残りの牛肉とたまねぎも同じようにする。

濃いビーフストック又はブイヨン   250cc
ブーケガルニ(大); 1個 (パセリ6本、ローレル1枚、タイム小匙1/2をチーズクローズにいれてしっかり縛る)
ビール(ラガー)400-500cc
ブラウンシュガー(薄い色のもの) 大匙1


同じフライパンにビーフストックかブイヨンを入れて煮立て、フライパンの底をこそげるようにする。それを牛肉とたまねぎの入ったキャセロールの中に注ぐ。さらに、牛肉が隠れるくらいビールを注ぐ。ブラウンシュガーを加える。ブーケガルニを牛肉の中にうずめる。キャセロールを火にかけ、ぐつぐつしてきたら蓋をして、あらかじめ温めておいたオーブンの下段に入れる。オーブンの中で2時間半、牛肉が柔らかになるまでゆっくりふつふつした状態を保ったままオーブンの中で煮る。

約 20gのコーンスターチを大匙2のワインヴィネガーと混ぜておく

ブーケガルニを取り出す。キャセロールの中のスープを小鍋に移し、アクを取る。スターチとヴィネガーを混ぜたものをスープの中にいれ3-4分煮込む。味見をして足りなかったら塩胡椒する。大体400cc 位の量になっているスープを牛肉の上に注ぐ。

*ここまで事前に作っておくことが出来る。

パセリポテト又はヌードル
パセリ(飾り)


サーヴするときは蓋をしたキャセロールを火にかけ、4-5分弱火でふつふつと煮て、中まで火が通るようにする。キャセロールのまま食卓に出してもよい。
熱い皿に肉を盛り、ソースを肉の上にかけ、ゆでてバターでソテーし、パセリを散らしたじゃがいもか又はヌードルをバターでソテーしたものを付け合せにしてサーヴする。


 久しぶりに作って、私は危うく焦がすところでした。今まで何度も作ってこんなことはなかったのでびっくりしました。お肉の量は上記のものの2/3でしたが、ビーフストックとビールの量はほぼ上記の通り使いました。恐らく、オーブンがコンベックであることと、お鍋を直径28センチと大き目のルクルーゼを使ったことで、短い時間で煮詰まってしまったのだと思います。

 ジュリア・チャイルドがこの本を最初に出版したのが1961年。私がこの本とであったのが1979年。現在私が持っているキッチン用品はその頃に比べればかなり進歩しました。今回私は約2時間煮込んだところで焦がしそうになったのですから、1時間半でもよいのかもしれません。或いはルクルーゼだったらオーブンの中に入れなくともおいしく出来るかもしれません。

 この本のレシピは50年近く経った現在でも立派に通用しますし、また、正統なフランス料理を学ぶにはとても適した本です。けれども、進歩したキッチン用品を使った新たな手間や時間の修正も必要なのかもしれません。


 また一週間ほどブロぐをお休みするかもしれません。また一週間後にお会いしましょう。それまで皆様もお元気で。
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by Mchappykun | 2009-08-21 01:38 | レシピ